戦士と語る Vol 10

元東洋太平洋バンタム級チャンピオン
新田 渉世

Photo By 山口裕朗
MI花形ジム 花形 進会長



30歳、手に職なし。妻子を養う為に焼き鳥屋で働き始めた。
「おい兄ちゃん、はやくビール持ってこいよ。」
横柄な客の態度に唇をかみしめる。月給15万。
元看護婦だった妻も復職し、夫婦共働きで生計を賄った。

あの大場政夫と1勝1敗の記録を残し、世界の頂点を極めた元WBA世界フライ級チャンピオン。現役引退後にこの男が味わった屈辱を、一般人には想像が出来るだろうか―


ちわっす!! しょーちゃんです。日本人が好みそうな書き出しですね。今回の“戦士”花形 進さん(MI花形ジム会長)があまりにおかしい人なので、少しは文章を引き締める意味で、最初だけマジメにいってみました。相変わらず世の中の景気は悪いようですが、落ち込んだ時は「戦士と語る」でも見て、元気出して頑張りましょう?!

前回のWBA世界ミニマム級チャンピオン星野敬太郎さんからの紹介。いつも兄弟の様にじゃれあっている2人。すぐにプロレスの技をかけ合う。お互いに相手をけなし合う。それでも2人とも世界チャンプ。日本史上初の師弟世界チャンプということでも注目され、2人揃ってマスコミにとり上げられる機会が多かったが、今回は“花形進”その人にスポットライトを当ててみたいと思います。


ひょうきんな子供が、そのままオジサンになったような花形会長。横浜線−鴨井駅のジムを訪れたいつものメンバー(ウッチー、山ちゃん、しょーちゃん)に自らコーヒーをたてて入れてくれました。単純な3人は、それだけで「おー、いい会長だなあ。」と意見が一致してしまいました。壁には現役時代の若き花形進の写真。そしてそれに対抗するように、ニューヒーロー星野敬太郎の写真もちりばめられていました。
「最近あんのヤローの写真が増えてきやがったんだよ。まあ世界チャンピオンだからしょうがねえけどな。ハハハ・・・」

なんとも不思議な2人の関係です。
「初防衛戦の相手は決まったんですか?」というウッチーの質問に、
「一応ね。まだ秘密なんだ。でもこの前の取材で記者に『×××なんでしょ』ってカマかけられて、つい『ウン』って答えちまったんだヨ。ハハハ・・・」
嘘がつけない人柄っていうか、隠し事が苦手っていうか、そんなところが可愛い花形会長です。

コーヒーをすすっているとテレビ東京のスポーツ担当者が登場。次回パシフィコ横浜での星野さんの初防衛戦の件で打合せとの事。
その間、我々は練習風景を見学。これまでもいくつかのジムを訪れて来ましたが、このジムの選手達は皆、生き生きしていると言うか何と言うか、選手と会長、トレーナーが言いたい事を言い合って、全部さらけ出し合ってやっているって感じでした。

「とにかく話をするヤツは長続きするね。試合後のオフの時でも何かと顔を出すし・・・。長く続けさせる為の雰囲気作りってのも大事なんだよ。」

花形会長の言っていた通り、この日も試合を終えて間もない選手が、自分の彼女を連れてジムに来ていました。そして打合せを終えて戻ってきた花形会長は、彼女の前で早速その選手にプロレス技をかけるのでした。

「やっぱり一生懸命練習やったらさ、後は楽しくやんなきゃ」

と言いながら、おもむろにベーゴマを取り出し、自慢げに回して見せる花形会長に(ベーゴマが得意なのはよく分かったので、早く取材に入りたいんですけど・・・)と言えないしょーちゃんは、

「どこか外へ出て、メシでも食いながらいろいろ聞かせてもらえますか」

と、なんとか“花形少年”の気を引いたのでした。

「ここなら10人位連れて来ても大丈夫なんだよ。」

花形会長は、車で3人を近くのレストランに連れて行ってくれました。食事代は我々が持つつもりだったのに・・・

「何言ってんだ。いいからいいから!」


ゲンキンな3人は、「おー、いい会長だなあ。」とまたまた意見が一致してしまいました。

中学生の時、好きだった女の子にふられた花形少年は「有名になって見返してやる!」と心に誓いました。そしてテレビでボクシングを見て「俺は世界チャンピオンになる!」と再び心に固く誓ったのでした。

16歳でデビュー(規定は17歳以上だが―?)以来、13年間で65戦。5度の世界挑戦の末、ついに王座をゲットした執念の男。

「5度目の挑戦の時は、死んでもいいと思ってやった。人間死ぬ気でやれば、何だってできるのさ。ただこれも、あきらめずに長く続けたから巡ってきたチャンスなんだ。」

―長く続ける事。やめない。やめさせない事。そのためにはやっぱり、打たせないで打つボクシングをしないといけない。それがプロというもの。長く続ければいつか必ずチャンスは巡ってくる―。これが花形進のボクシング哲学。人生哲学だとしょーちゃんは受け止めました。

世界チャンピオンといえど、何度も防衛しなければ十分なお金を残すのは難しい。まして妻子を養ってゆくとなると、一時的な大金はすぐに底をついてしまう。

引退後、焼き鳥屋、スナック、不動産関係の仕事で苦渋をなめた元世界王者だったが、花形進の哲学はやはり間違っていなかったのでした。

ジムをやりたいという思いをあきらめずに、日々の仕事で頑張っていたある日、昔のジムメイトと再開しました。後日2人で飲んだ時に、ジムをやりたいという話をすると、会社経営で成功していたそのジムメイトは、バックアップをしてくれると言うではないですか!!

話はトントン拍子で進み、屈辱の日々から再びボクシング界に、今度はジム会長としてカムバック出来たのです。但し、ここで注目してもらいたいのが、焼き鳥屋さんでも、スナックでも、不動産屋さんでも、元世界チャンプは一生懸命頑張ったというところです。今でも当時の仲間や先輩は、花形進を応援してくれているそうです。

「オレの場合はさあ、あきらめずに、あきらめずに頑張って、やっぱりダメかなって思いかけた頃アレッて感じで夢が叶っちゃうんだな。」


今回の世界チャンピオン誕生にしてもそうでした。31歳の星野敬太郎をあきらめさせず、世界のベルトを巻かせてしまった。(星野さんは、「オレが頑張って獲ったんだ」と言って会長にプロレス技をかけていましたが・・・)


今度の夢は、ラスベガスで世界戦を組む事だそうです。なんだか実現しそうな気がしますね。
といっても夢の為だからって、選手に何かを無理強いする訳ではない。

「何でもそうだけど、やっぱりハートが一番じゃない?選手とトレーナーは呼吸が大事。ボクサーとオンナは、来る者は拒まず、去る者は追わずがモットーだ。」

“すっとぼけた素敵なオジサン”―独断でキャッチフレーズをつけさせていただきます。

Talking Bluesの田村センセに花形会長より伝言です。
「オンナ遊びばっかりやってないで、たまにはこっちにも顔を出せ。」

とにかくよくしゃべってくれた花形会長に、ウッチーが感謝の気持ちで最後ひと言―
「やっぱり男は顔じゃなくて“しゃべり”ですね!!」???

心にへばりついた何かが、少しずつはがれ落ちてゆくのを感じたしょーちゃんでした。



 



Top